眠っている愛犬のお腹が、いつもより速く上下している。運動した後でも暑い日でもないのに呼吸が早い——そんな様子に気づくと、様子を見ていいのか、すぐ病院に連れて行くべきなのか迷ってしまいます。犬の呼吸の速さは、家庭でも数字で確認できる数少ないサインのひとつです。この記事では、正常な呼吸数の目安と正しい測り方、そして受診を判断するための具体的な基準を整理します。
ご注意ください 呼吸の変化は、心臓や肺など命に関わる病気のサインであることがあります。この記事は家庭で状態を把握するための目安をまとめたものであり、診断に代わるものではありません。判断に迷う場合や、いつもと違う様子が続く場合は、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。
- 犬の安静時の正常な呼吸数の目安と、家庭での正しい測り方
- 老犬が寝ている時に呼吸が早い場合に、特に注意したい理由
- 呼吸数以外に確認すべきサインと、すぐに動物病院へ向かう判断基準
犬の呼吸が早いかどうかは「安静時の呼吸数」で判断する

「呼吸が早い気がする」という印象だけでは、興奮による一時的な変化なのか、体の異常なのかを区別できません。判断の出発点になるのが、安静時の呼吸数です。
正常な呼吸数の目安
犬の正常な呼吸回数は、日本動物医療センターの解説によれば毎分10〜35回程度とされています。体格によって幅があり、小型犬ほど多く、大型犬ほど少なくなる傾向があります。
また、夏場は体温調節のために呼吸がやや速くなることがあります。気温の高い日や運動の直後に測った数字は、平常時の値としては使えません。
呼吸数の測り方
測定は、愛犬が落ち着いている時、または眠っている時に行います。
- 胸やお腹が上下する動きを見る(上がって下がるまでを1回と数える)
- 10秒間数えて6倍、または15秒間数えて4倍する
- 数日〜1週間ほど記録し、その子の平常値を把握しておく
この「平常値を知っておく」という点が最も重要です。同じ毎分30回でも、普段が15回の犬と普段が28回の犬では意味がまったく違います。異常に早く気づける飼い主は、例外なく普段の数字を知っています。
体温も同じように、平常値を知っておくと変化に気づきやすくなります。
▶関連記事: 犬の体温・熱の測り方は人間用体温計でOK?正しい計り方と平熱の目安
老犬が寝ている時に呼吸が早いのは見逃せないサイン
起きている時の呼吸は、うれしさ、緊張、暑さ、痛みなど、さまざまな要因で変動します。一方、眠っている時は外的な刺激がほとんどありません。そのため睡眠中の呼吸数は、体の状態をより素直に反映します。
犬の心臓病の診断・治療に関するACVIM(米国獣医内科学会)のコンセンサスガイドラインでは、心臓病を抱える犬の管理において、飼い主が自宅で安静時・睡眠時の呼吸数を記録することが、状態の変化を早期に捉える手段として位置づけられています。専門医が重視するほど、睡眠時の呼吸数には情報が詰まっているということです。
老犬で特に注意したいのは、次のようなケースです。
- 眠っている時だけ、以前より明らかに呼吸が速くなった
- 数日から数週間かけて、じわじわと平常値が上がってきている
- 呼吸が速い日と落ち着いている日の差が大きくなってきた
いずれも急激な変化ではないため見落とされがちですが、進行性の病気では、こうしたゆるやかな上昇が最初のサインになることがあります。記録が残っていれば、診察時に伝えられる情報の質が大きく変わります。
呼吸数以外で確認したい「すぐに受診すべきサイン」
呼吸数が正常範囲でも、呼吸の仕方がいつもと違う場合は緊急性が高いことがあります。日本動物医療センターの解説では、次のような状態を「呼吸が苦しい」サインとして挙げています。
- 上を向いて呼吸している
- 深い呼吸をしている(お腹や胸がいつもより大きく動く)
- 伏せることができない、眠れない
- 咳が続いている
- 舌の色が白い、または青い
このうち舌や歯ぐきの色が青白い状態はチアノーゼと呼ばれ、体に酸素が行き渡っていない可能性があります。これらが見られた時は、様子を見るのではなく、夜間であっても救急対応をしている動物病院に連絡してください。
老犬の呼吸が早い時に考えられる主な病気

呼吸が速くなる背景には、呼吸器そのものの病気だけでなく、心臓や全身の状態が関わっていることがあります。日本動物医療センターの解説では、部位ごとに次のような病気が挙げられています。
| 部位 | 代表的な病気 | 特徴 |
|---|---|---|
| 鼻 | 鼻炎 | 炎症で鼻の内部が腫れ、呼吸がしにくくなる |
| のど | 短頭種気道症候群・軟口蓋過長症 | パグやブルドッグなど短頭種に多い |
| 気管 | 気管・気管支の炎症 | 苦しそうに前足を突っ張って呼吸することがある |
| 肺 | 肺炎 | 感染性のほか誤嚥でも起こる。重症化が早い |
| 胸腔 | 胸水 | 胸に水が溜まり、肺が十分に膨らめなくなる |
| 心臓 | 心不全(肺水腫)・フィラリア症 | 肺に水が溜まり、呼吸が速くなる |
高齢の小型犬では、心臓の弁の変性による心不全が呼吸の変化として現れることがあります。また、乾いた咳とガーガーという呼吸音を伴う場合は、気管がつぶれる気管虚脱の可能性もあります。アニコム損害保険の疾患情報によれば、気管虚脱でチアノーゼや重度の呼吸困難が見られる場合には、治療の一環として酸素吸入が行われることがあります。
なお、呼吸の速さと咳が同時に出ている場合は、原因の切り分け方が少し変わります。
▶関連記事: 犬の咳が止まらない・咳き込む原因|老犬に多い心臓病と気管虚脱の見分け方
家庭でできる対処と、診察に役立つ記録の残し方
原因を特定できるのは獣医師だけですが、家庭でできることもあります。
環境を整える
室温と湿度を下げ、風通しを確保します。呼吸が苦しい状態では、体温が上がるだけで負担が増えます。また、抱き上げたり呼びかけたりして興奮させると呼吸数がさらに上がるため、静かな場所で落ち着かせることを優先してください。首輪が気道を圧迫することもあるため、呼吸が荒い時はハーネスに切り替えるか、一時的に外すことも検討します。
記録を残す
診察では、飼い主が持参する情報が診断の手がかりになります。
- 安静時・睡眠時の呼吸数(日付と時刻つき)
- 呼吸している様子を撮影した動画(10〜20秒程度)
- 舌や歯ぐきの色を撮影した写真
- いつから変化したか、変化した前後の出来事
特に動画は有効です。病院では緊張で呼吸が変わってしまうため、自宅での様子がそのまま伝わる記録は、それだけで診察の精度を上げます。
自宅での酸素ケアについて
呼吸器や心臓の病気で在宅ケアを続ける場合、獣医師から自宅での酸素環境を勧められることがあります。ここで理解しておきたいのは、ペット用の酸素室は病気そのものを治す装置ではないという点です。呼吸のしやすい環境を整えて負担を軽くする、あくまで補助的な手段です。導入するかどうか、どのタイミングで使うかは、必ずかかりつけの獣医師の判断に従ってください。
▶関連記事: 犬を酸素室に入れるタイミングの考え方と使用前の注意点を解説
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▶関連記事: ペット用酸素室・酸素濃縮器 比較|後悔しない選び方を解説
まとめ
犬の呼吸が早いかどうかは、印象ではなく数字で確認できます。
- 犬の安静時の正常な呼吸数は毎分10〜35回程度が目安
- 10秒×6倍、または15秒×4倍で測り、平常値を記録しておく
- 眠っている時の呼吸数は体の状態を素直に反映するため、変化に気づきやすい
- 呼吸数が正常でも、上を向く・お腹を大きく使う・伏せられない・舌が白い、青いといった様子があれば緊急性が高い
- 背景には鼻・のど・気管・肺・胸水・心臓など幅広い病気があり、家庭で特定はできない
- 呼吸数の記録と動画は、診察の精度を上げる有力な材料になる
呼吸の変化は、老化として片づけられてしまいがちなサインです。しかし平常値を知っていれば、「いつもより速い」を客観的な数字として獣医師に伝えられます。今日から測り始めて記録を残しておくことが、次の変化に気づくための備えになります。
出典一覧

