同じ場所を何周も回り続けている。呼びかけても止まらない。高齢の犬にこの行動が出ると、多くの人がまず認知症を疑います。ただ、ぐるぐる回る背景には、急いで対応すべき病気が含まれていることもあります。この記事では、認知症による旋回とそれ以外の原因をどう見分けるか、そして家庭でできる対策を整理しました。
- 旋回行動を見たときに、まず観察すべき3つのポイント
- 認知症による旋回と、急性の病気による旋回の違い
- 環境と生活リズムの面から、今日から始められる対策
※急に始まった旋回や、頭が傾く・目が揺れるといった症状を伴う場合は、様子を見ずに動物病院へご相談ください。
ぐるぐる回る=認知症とは限らない

アニホック動物医療センター小平病院は、犬の旋回行動について、背景に脳の病気、前庭疾患、肝臓・腎臓の病気、中毒など、命に関わる原因が含まれると説明しています。寝床の前で数回回るような行動とは異なり、長時間止まらない旋回や、本人の意思とは関係なく回ってしまう状態には医学的な原因があることが多いとしています。
同院は、旋回に気づいたときにまず観察したい点として、旋回の方向と様子、他の神経症状、直前の経過の3点を挙げています。この3つをメモしておくと、受診時の情報として役立ちます。
高齢犬で特に多い原因
同院が挙げる代表的な原因には、次のようなものが含まれます。
- 特発性前庭疾患:シニア犬で突然発症する原因不明の前庭の病気で、強いふらつきと斜頸、眼振、嘔吐、片側への旋回が特徴。多くは数日〜数週間で改善が期待できるとされています
- 内耳炎:外耳炎が奥に進行して内耳まで影響した状態で、斜頸とともに旋回行動が現れるため、耳のトラブルの既往がある犬では注意が必要です
- 脳腫瘍:徐々に進行する旋回行動、けいれん、意識障害、左右非対称の神経症状がある場合に鑑別が必要とされています
いずれも、認知症とは対応がまったく異なります。
認知症(認知機能不全症候群)による旋回の特徴
認知症は、獣医療では認知機能不全症候群(CDS)と呼ばれます。プリモ動物病院グループは、高齢犬の脳は人のアルツハイマー型認知症の前段階と考えられており、犬の脳にもβ-アミロイドがたまることが確認されていると説明しています。同院は、カリフォルニア大学の研究として、11〜16歳の高齢犬のうち約62%が認知障害症候群の症状に1つ以上当てはまったという報告も紹介しています。
決して珍しい状態ではない、ということです。
姉ヶ崎どうぶつ病院は、認知機能不全症は7〜8歳以上の高齢犬で発症リスクが高まり、特に12歳以上で顕著に表れる傾向があるとしたうえで、柴犬や秋田犬などの日本犬で多いとされるものの、犬種を問わず注意が必要だと述べています。
ドクターオザワ動物病院は、認知症で見られる行動として同じ場所をグルグルと徘徊する、何もないところをぼーっと見ている、狭いところに入りたがり入って身動きが取れなくなるといった様子を挙げています。
認知症とそれ以外を分ける見方
| 見るポイント | 認知症で多いパターン | 急性の病気で多いパターン |
|---|---|---|
| 始まり方 | 数か月かけて少しずつ | ある日突然 |
| 頭の傾き・目の揺れ | 基本的に伴わない | 斜頸や眼振を伴うことがある |
| 歩き方 | 歩けるが方向を見失う | ふらつく、横転する |
| 同時に出る変化 | 夜鳴き、トイレの失敗、呼びかけへの反応の低下 | 嘔吐、食欲不振、けいれん |
姉ヶ崎どうぶつ病院は、夜鳴きについても違いを指摘しています。加齢による夜鳴きは物音や外部からの刺激に反応して吠えることが多いのに対し、認知機能不全症では静かな環境でも理由なく鳴き続けることが特徴だとしています。トイレの失敗も同様で、加齢では間に合わないことが多いのに対し、認知機能不全症ではトイレの場所を認識できなくなったり使い方を忘れてしまったりするという違いがあります。
「できなくなった」のか「分からなくなった」のか。この区別が手がかりになります。
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今日からできる対策

挟まらない・ぶつからない環境をつくる
旋回そのものをやめさせることは困難です。本人に自覚のない行動である以上、止めさせるより、回り続けても危険がない空間を用意するほうが現実的です。
家具の隙間や壁のコーナーは、入り込んで動けなくなる原因になります。隙間を塞ぐ、角にクッション材を当てる、行動範囲を区切るといった調整が中心になります。

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生活リズムを整える
おだわら動物病院は、認知機能不全の兆候が見られた段階で、軽い運動をする、コミュニケーションをしっかりとるといった行動修正やサプリメントを用いて予防に取り組んでいた症例を紹介しています。同院によれば、症状が進行した場合には薬を使う選択肢もあり、その子によって効き方が異なるため用量や組み合わせを調節していきます。
日中に活動する時間をつくり、夜との区別をはっきりさせることが、生活リズムを保つうえでの基本になります。
記録をつける
いつから、1日に何回、どのくらいの時間回っているか。方向は一定か。夜鳴きやトイレの失敗が同時に出ていないか。こうした記録は、認知症かそれ以外かを判断する材料になります。動画があれば、診察時に見せるのがもっとも確実です。
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受診を急ぐべき場合
アニホック動物医療センター小平病院は、発症から治療開始までの時間が予後を左右する病気もあるため、早めに動物病院に相談してほしいとしています。
次のいずれかに当てはまる場合は、認知症と決めつけずに連絡してください。
- 昨日まではなかった旋回が、突然始まった
- 同じ方向にだけ回り、まっすぐ歩けない
- 頭が傾いている、目が細かく揺れている
- 嘔吐やふらつき、けいれんを伴っている
- 耳の病気を繰り返してきた経過がある
まとめ
高齢犬がぐるぐる回るとき、認知症はたしかに代表的な原因のひとつですが、前庭疾患や内耳炎、脳腫瘍など、対応が異なる病気も候補に含まれます。区別の手がかりは、始まり方の速さ、頭の傾きや目の揺れの有無、そして同時に出ている変化です。
認知症による旋回であれば、止めさせるより安全な環境を整えるほうが現実的です。生活リズムを保ち、記録を残しながら、経過をかかりつけの獣医師と共有していってください。

